ランの起源について
2009年7月
09/07/24 鎌倉蘭友会 最上正太郎
科学雑誌NATUREの2007年8月30日号の記事の紹介
ここにご紹介するのは、表記の雑誌(日本版)の記事のうち、日本語で寄稿された要約と、論文中に示された花粉塊を持ったハチの写真と、Figure 4 化石で更正された分子時計クロノグラムです。
ランの起源、「ランは何時地球上に現れたのか?」この問題はダーウインの種の起源以来、人類最大の謎の一つでした。
ランの起源はごく最近まで、確実なことは何一つ判りませんでした。
植物の種の過半を占める多様な種、その花の千変万化する面妖な形、彼らが恋の文使いとしている虫たちとの絶妙な関係、儚げな生殖のメカニズム、広大な分布域、それをとっても不思議に満ちています。
そして、彼らが生息の痕跡がないこと。
世界中の研究者が競ってランの痕跡を求めて世界中を探索しましたが、ランの化石は一つも見付かりませんでした。
然しながら、最近、ドミニカ共和国産の琥珀の中に20,000,000年もの間、ランの精を守っていたハチが見付かりました。
このハチ(ハリナシバチ:Proplebeia dominicana)の持っていたラン(Meliorchis caribea)の花粉塊の研究から、現存するランの共通祖先が後期白亜紀(8,400万~7,600万年前)に生存していたこと、その劇的な分化が恐竜などが絶滅した大量絶滅(K/T境界)後に発生したことが示唆されているとのこと。
ランは恐竜のエサにはされなかったようです。
それにしても、何故2000万年前の化石から8000万円前のことが判るのでしょうか?
Dating the origin of the Orchidaceae from a fossil orchid with its pollinator
送粉者とともに見つかったランの化石から算定されたラン科発祥年代
ダーウィンの時代から、進化生物学者はランが示す虫媒への目覚しい適応に魅せられてきた。
しかしながら、ラン科は地球上の植物の中で最も多様化が進んだ科であるにもかかわらず、明確な化石記録がなく、進化史ははっきりしない点が多い。
今回我々は、現在は絶滅しているハリナシバチの一種Proplebeia dominicanaの中胸小楯板に付着していた、保存状態が極めてよいラン(新属新種のMeliorchis caribea)の花粉塊について報告する。
このハリナシバチと付着花粉塊は、ドミニカ共和国産の2,000万~1,500万年前の中新世の琥珀内から得られた。
この発見は、明白なラン科化石として最初のものであると同時に、植物と送粉者の相互作用を直接確認できる化石として前例のないものである。
形態的形質マトリックスに分岐学的手法を適用することにより、我々は、 M. caribeaの系統的位置が,現存するGoodyermae亜連(ラン亜科)に含まれることを突き止めた。
さらに、他の化石単子葉植物とM. caribeaの年代を用いて、ラン科の分子系統樹の時間目盛りを較正した。
得られた結果は、現存ランの最終共通祖先が後期白亜紀(8,400万~7,600万年前)に生存していたことを示しており、ランの劇的な放散がK/T境界時の大量絶滅直後に始まったことも示唆している。
これらの結果は、ラン科の祖先が単一起源だとする仮説をさらに支持するものである。
ハーバード大学(米)S.R. Romirez et al
琥珀の中のランの花粉をもったハチ
Figure 4 Fossil-calibrated molecular clock chronogram of the family Orchideae, based on ~ 3 kilobases of plastid DNA (mark and rbcL.)
① 約1億2000万年前に、後にランになる植物と、ランにならない植物、ノン-オーキッドアスパラギエスNon-orchid Aspargaiesが分化した。
② 約8000万年前に最初のラン、アポスタシオディアApostasiodeaeが分化した。
③ 約7500万年前にシプリペディオデアCypripediodeae及びヴァニオイデアVanilloideaeが分化した。大絶滅の少し前のことである
④ 大絶滅(K/T boundary) の頃、オーキッドイディアOrchidoideae及びエピデンドロイデアEpidendroideaeが分化した。ランの種の95%はこの2つの属に分類される。
受恩文献:
Nature 448, 1042-1045 (30 August 2007)
Dating the origin of the Orchidaceae from a fossil orchid with its pollinator
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